法廷の電話室で満ちた霊水の壜
どんな伝承か
詐術の疑いで裁判にかけられた霊媒の長南年恵の公判は、十一月十二日に神戸地方裁判所で開かれた。弟の長南雄吉によれば、型どおりの訊問のあと中野裁判長が、この法廷でも霊水を出せるかと尋ね、年恵は平然と、身を隠す場所さえ貸してもらえればたやすいと答えた。裁判所は新築中で、弁護士詰所にできたばかりの電話室を塵ひとつ残さず掃き清め、年恵を裸にして検査したうえ、裁判長が自ら封印した二合入りの空壜を持たせて中へ入れた。雄吉が時計で計るとちょうど二分で合図があり、出てきた年恵の壜は封印のまま茶褐色の水で満ちていた。年恵には即座に無罪が言い渡されたという。
原典より
すると正に二分時を経過せる時に、電話室の内部からコツと合図が聞えます。—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。