田圃から近づく神の音楽
どんな伝承か
小竹繁井の直話である。年恵は自分の部屋への他人の出入りを厳禁していたが、繁井だけは例外でよく遊びに行った。普段は変わったこともないが、やがて田圃の方から風鈴の音のような音楽が聞こえて来ると、今どの神様がおいでになるからと言って部屋から出された。千葉家の裏は北向きの田圃である。神によって音楽の音色が異なるというが、繁井にはその区別がつかなかった。部屋の中では神と年恵が談話を交わしていたが、一切聞き取れない。ある時は大黒様が来て縁側で大黒舞を舞い、姿は見えないが衣擦れの音が手に取るように聞こえた。時には障子の孔から金米糖が部屋の内へばらばら投げ込まれ、繁井はそれを戴いて食べたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。