天から逆さに下る宗吾の幽霊
どんな伝承か
佐倉の宗吾霊堂には、歌川国芳の「佐倉宗吾の幽霊」の絵が今も陳列されている。ふつう幽霊は、腰から下をおぼろにしたまま地上に立って現れるが、この絵の宗吾の霊は天から逆さまに下りてきて、訴状を差し出しながら君主に迫っており、腰から下はおぼろげに画面の外の天へつながっている。逆さ吊りの刑にされ井戸へ斬り落とされた番町皿屋敷のお菊が、空から逆さに下りて鉄山のさす傘に取りつく姿にも似ている。著者は、こうした逆さの幽霊は極刑に遭った者のこの世への恨みの深さを示すもので、立って出る幽霊の型が固まった後に、その型を破るために生まれたものだと見る。
原典より
腰から下は、ありともなしともおぼろげに画面以外の天の世界につながっているのである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。