吹雪の葬列を襲う火の玉の大猫
どんな伝承か
『北越雪譜』の『北高和尚』は、越後国雲洞村雲洞庵にまつわる話である。この寺に近い三郎丸村の農家に死者が出たが、折しも冬の雪が降りつづき吹雪もやまなかったので、三、四日は晴れを待って葬式をのばした。それでも晴れないので強いていとなみをなし、旦那寺なれば北高和尚を迎えて棺を出し、親族はもとより人々も蓑笠で雪をしのぎながら送っていった。その雪途も半ばに至ったとき、猛風がにわかに起こって黒雲が空に布満ち、闇夜のようになる。いずくともなく火の玉が飛来して棺の上に覆いかかり、火の中から尾がふたまたの大猫が牙を鳴らして棺を奪おうとしたので、人々は棺を捨てて逃げまどったという。
原典より
火の中に尾はふたまたなる稀有の大猫牙をならし鼻をあき棺を目がけてとらんとす。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。