寒戸から消え三十年後に帰った娘
どんな伝承か
『遠野物語』八話は、黄昏に女や子供が家の外に出ていると神隠しに遭うと説き起こす。松崎村の寒戸という所の民家で、若い娘が梨の樹の下に草履を脱ぎ置いたまま行方知れずになった。三十年あまり過ぎたある日、親類知音の人々がその家に集まっていたところへ、ひどく老いさらばえたその女が帰ってきた。どうやって帰ってきたのかと問うと、人々に逢いたかったから帰ったのだと答えた。それではまた行こうと言って、再び跡を留めず消え失せた。その日は風が烈しく吹く日であった。それゆえ遠野郷の人は、今でも風の騒がしい日には、今日はサムトの婆が帰って来そうな日だと言うのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
黄昏綺譚(高橋克彦・幽霊・怪異体験・1996年(平成8年))
『黄昏綺譚』は、高橋克彦が連載をまとめ、一九九六年七月付のあとがきを付したエッセイ集で、吉田光彦の挿絵と組んだ画文集である。著者が体験し見聞きした分身や生霊、寺での怪異、前世、UFOなどの不思議と、史料や神話に残る怪異、宮澤賢治をゴッホの生まれ変わりとみる考えを語る。「この世に幽霊はいる」「不思議な話が史料や神話に」「宮澤賢治はゴッホの生まれ変わり!!!」の三部に分かれ、巻末にあとがきと丸尾末広の解説「黄昏るペン」を収める。