鬼門のせいとされた哲学館の火事
どんな伝承か
家相の迷信について、著者は自分の創立した哲学館の火事を例に挙げる。哲学館が火事で全焼したとき、建物が鬼門に触れていたから火災にあったのだという評判が広まり、家相家はこれを格好の材料にして家相の効き目を言い立てたらしい。しかし実際には、焼けた哲学館は鬼門に触れておらず、鬼門に触れていたのは館内にあった著者の昔の住まいのほうだった。鬼門に触れる住宅が焼けず、触れない哲学館が焼けたのだから、家相と火事には何の関係もない。そのうえ同じ時に郁文館も丸焼けになったのは何のせいかと著者は問い返している。
原典より
それに哲学館の建築が鬼門に触れていたから火災に遇うたとの評判が伝わり、家相家はこれを好材料として家相の功能を述べ立てたかに聞いておる。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。