湖岸で眠る農夫を見張る狼の赤い目
どんな伝承か
明治より前のこと、著者の家から四里ほど離れた所に住む農夫が、舟に薪を積んで宍道湖を渡って来ていた。ある日、酒食をふるまわれて日暮れに舟で帰る途中、三里ほど進んだところで眠くなり、秋鹿村と大野村の村境の岸に舟を寄せて横になった。やがて顔を松葉の束でつつかれるようにちかちかするので、何度も手で顔をなでたあと起き上がると、岸辺に狼が一頭いて、両眼を赤い星のように光らせていた。驚いて舟を沖へ二三十間漕ぎ出したが、狼の目はなおもはっきりと赤く光って見えたという。殺気を帯びた野獣の目が強く光る例として挙げられている。
原典より
するといつしか顔面を松葉の束ねたものでつかれる如くにチカくするので、何度となく手で顔を撫でた末、起き上つて見ると、岸邊に一疋の が居て兩眼を赤星の如くに輝かしてるたので、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。