愛宕山の男坂を列で登る二十九匹の狐
どんな伝承か
松江の吉城氏の老婦人が著者に語った話である。明治の初めのある夏の夜、老婦人は字堂潟の親戚に病人が出たので、看病をかねて泊まりに行った。夜明け前にその家の幼子を背負い、門先に出て子守をしていると、やがて空が白みはじめた。ふと正面の愛宕神社のある丘を見ると、狐が列をつくって急な男坂を登って行くのが見え、数えると二十九匹いたという。著者は、夜のあいだ市中に散っていた狐が明け方に集まって山へ帰るところだったと解し、今の人には信じられまいが、昔はそれほど狐が多かったのだと述べている。
原典より
話しても現代人は信じないであらうが、昔は其様に狐が多く居つたのだ。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。