子の手を引き合う二人の乳母
どんな伝承か
『今昔物語』の話。長和(一〇一三年)の頃、源雅道中将の家の離れで、二歳になる中将の子を乳母が遊ばせていた。すると急に子供の泣き声が高くなったので、中将が駆けつけてみると、乳母と寸分違わぬ女がもう一人現れ、子供を中に挟んで両側から手を引っ張り合っていた。本物とそっくりに乳母に化けた狐が現れた事件である。狐が人に化けて本物と鉢合わせをし、争ったあげく、かろうじて逃げ出してゆくという筋の話の一つに数えられる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。