西谷と東谷に現れる一つ目一本足
どんな伝承か
比叡山には、目も足も一つきりの妖怪が長く棲みついていて、西谷と東谷のあいだでよく人と行き合ったという。もっとも、人に害を加えることは決してなかった。ある法師は、月が隈なく照る夜にこの妖怪を目にしたが、それは前の山を足早に駆け下りていったと伝えられる。深山を歩き回る者が足一本では不自由きわまりないはずだが、その身で山野を自在に駆けてみせるところこそ妖怪の妖怪たるゆえんなのだろう、と語られている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。