身の上を嘆いて馬の虫となった女
どんな伝承か
常陸の大津東町に、世間から別扱いされる身分の家の娘がいた。娘はその扱いを嫌い、同じ身分でない夫を持ちたいと観音に願をかけたがかなわず、美しさを頼りに遊女となって相手を探した。やがて親切な客に身請けされて夫婦となり、子も生まれたが、その子は育つにつれて犬や猫を殺して皮を剝ぐことを好み、いくら叱ってもやめない。不安になって夫の素性を調べると、夫もまた同じ身分の出で、同じ願いから身元を隠していたと分かった。女はわが身を嘆いて自ら命を絶ち、馬に取りつく虫になったという。それゆえ馬に「大津東町」と書いておけば、同じ町内の馬だとして見逃してくれると伝わる。
原典より
で大津東町とかいて置けば、町内の馬だからと助けてくれる。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。