羽織泥棒をとがめた宿の馬
どんな伝承か
武州神奈川の宿に泊まった旅人が、朝早く発とうとすると雨が降り出した。旅人はそこにあった宿の亭主の羽織を盗んで着て行こうとした。すると「それは亭主の羽織だ、なぜ着て行く」という声がする。驚いてあたりを見回したが、人の姿はない。気のとがめだろうと思い直してまた着ようとすると、ふたたび同じ声が聞こえた。今度こそ本当に驚いて羽織を投げ出し、見回してみると、馬屋の馬がじっとこちらを見つめていたという。馬が人の言葉で悪事をとがめた例として挙げられている。
原典より
此度は真實に驚いて羽織を投げだして見廻すと、馬屋から馬が見つめてゐた。—— 民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。