泊まり客をくすぐった今淵家のザシキワラシ
どんな伝承か
遠野の土淵村飯豊にある今淵という旧家には、ザシキワラシがいると噂されていた。瀬川勘助という人の父親が、用事があってこの家に泊まったときのこと。奥座敷と表座敷の間の十畳ほどの座敷に寝かされると、夜中に奥のほうから何かがとたとたと歩いてきて、いきなり懐へ冷たい手を差しこんできた。ザシキワラシに違いないと思うと気味が悪く、身を縮めてこわばっていると、脇の下をくすぐり、しまいには腹までなで回してくる。人に笑われるのが恥ずかしくて朝までこらえたが、体は汗でびっしょりになっていた。起き出すと家の人たちがくすくす笑い、ゆうべは逆夜這いに来られて面白い目にあったろうと、からかわれたという。
原典より
夜半に奥座敷から、何かとたとたと歩いて来ると思うと、やにわに懐に冷たい手を入れられた。—— 日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。