山姥を射た武士と障子の血文字
どんな伝承か
羽黒村の鳴海高橋に、福富新蔵国平という武士が住んでいた。文明の頃、羽黒川をさかのぼって富士や本宮のあたりで狩をしていると、本宮の社の拝殿に、髪をふり乱した一丈ほどの大女がいた。噂に聞く山姥だと見た新蔵が矢を射かけると、神燈がふっと消え、山じゅうが鳴り響いて雲と霧が湧き立った。夜が明けるのを待って拝殿をのぞくと黒い血が流れており、その跡は鞍が淵の方角へ続いている。辿ってゆくと余野の里の小池与八郎の家の門のわきで血は途絶えていた。与八郎の妻はその暁から床につき、問いかけても答えない。布団をはぐと姿は消え、おびただしい血だけが流れ、障子には血で二首の歌が書き残されていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。