不浄桶の水で怒った六所明神の出現
どんな伝承か
文政八年七月末、松平村の六所大明神の祭礼で舞台の庇を増築していたとき、政右衛門の召使いの音吉が用便桶で運んだ水で壁が塗られてしまった。八月一日から若者が踊り狂言の稽古を始めると、夜に気味の悪い打綿のようなものが現れた。二日目は村人が鉄砲を持ち込んで待ち構えると、大きな火の玉が舞台を転がり回った。三日目は明神の宝剣を舞台に安置して見守るうち、夜中に六所山の方から物音が響き、身の丈一丈、皿のような両眼で口が耳まで裂けた神が榊と百目蝋燭を手に現れ、一同を睨みつけた。気絶する者や逃げ出す者で大騒ぎとなり、翌朝村中で身を清めて詫び、修験者に般若心経をあげてもらった。六所明神騒動として今に語られる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。