沈鐘と怪光の今水寺
どんな伝承か
八名村八名井の吉祥山中腹にあった今水寺は弘法大師の建立と伝わる大寺で、十二の寺と一万石の寺領を持ったという。寺跡の一部はいま谷あいの沼田で、底に寺の鐘が沈んでいると伝えられ、稲も植えず雑草のままにしてある。村人が近くで働いていると、うなり声とともに大鐘が浮かび上がりまた沈んだこともあった。天正元年、野田城を攻めた武田信玄が陣を張ろうとして断られ、怒って寺を焼き僧を皆殺しにした。三ツ木沢には三日三晩血が流れ、地獄沢と呼ばれる。山頂に祀った吉祥天女の社からは怪しい光が渥美湾まで届いて漁がなくなり、漁師の頼みで社を下げると光は止んだ。寺跡には大師が湧かせたという三河三名水の清水が残る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
愛知県伝説集(福田祥男・1961年(昭和36年))
『愛知県伝説集』は、福田祥男が昭和三十六年に著した愛知県の伝説集である。尾張・三河の山や海、淵や池、地蔵と観音、石や塚、城跡、地名、動物と変化、植物、祟りと怨霊などにまつわる言い伝えを、原型に忠実に再現することをめざして平易な文で語り直し、話の末に郡市名を添える。山の伝説から其の他の伝説まで十五の部に分け、あとがきでは前年に出した『愛知県伝説集・虹と黒潮』を全面的に改稿し増補したと記す。