雲の中から棺をつかむ手
どんな伝承か
安永二年に露藤の宝岳寺が焼失してから二十数年、寺は再建されなかったが、文化年間に名僧といわれた頼泉によって現在地に建て直された。頼泉が四十代の頃、檀家に不幸があって葬式に出た。当時、葬式は夜に営まれ、五人組の者が棺をかついで墓地へ向かうと、一天にわかにかき曇って凄まじい雷鳴がとどろいた。墨を流したような真黒な雲が地上へ垂れてきたかと思うと、その中から異様な手がぬっと現れて棺をつかみ、見る間に空中へ吊り上げようとした。参列者は我を忘れて逃げ出したが、頼泉ただ一人が残り、数珠をつまぐって経文を唱えた。すると怪物は力を失ったのか姿を消し、雲も晴れて星空にかえったという。
原典より
安永二年 一九二年前 露藤の宝岳寺が焼失すると、その後二十数年の間は寺の再建が出来ませんでした。—— 高畠町伝説集(昭和三十二年(1957)刊/高島高校文芸班編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
高畠町伝説集(昭和三十二年(1957)刊/高島高校文芸班編)
山形県東置賜郡高畠町(屋代・亀岡・和田・二井宿・糠野目・高安・露藤ほか各地区。一部は隣接の米沢市・南陽市宮内・長井市)に伝わる伝説を、神仏/人物/怪異/動物/什物/地物/地名/地誌 の八篇に分類して集成する。屋代神社の鬼女縁起、犬の宮・猫の宮、安久津八幡、狐狸むじなの化かし、天狗・怪物・沼の怪、青葉の笛や応挙の幽霊画、伊達・上杉の城館跡や古戦場、地名由来など、高畠の地に根ざした怪異・霊験・由来譚を地区つきで網羅する。