作手の山陰に小屋を掛けるボン
どんな伝承か
海抜千五百尺の高く寒い作手の村にも、ボンと呼ばれる漂泊の人々は毎年欠かさずやってくる。いつのまにか部落から少し離れた山陰の、水の静かに流れる岸などに小屋を掛け、つつましく煙を上げている。里の人なら人声がすれば顔を出してこちらを見るが、ボンは足音を止めると話し声を絶ち、うかがおうとすればいよいよひっそりとなる。男は朝から川に入って顔を見せず、獲物を売りに来るのはたいてい子連れの女である。竹籠も作るが本業は川漁で、とりわけ亀を捕るのがうまい。警察はサンカとか箕直しとも呼んでいる。
原典より
普通の里人なら必ず顔を出して此方を見るが、足音を止めると話聲を絶ち、物色しようとすれば愈々ひつそりと爲るのはポンである。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。