国勢調査に一世帯もいないボン
どんな伝承か
不思議なことに、国勢調査の時に気をつけて見たが、どの部落にもボンは一世帯もいなかったと言った人がある。自分はこれを怪しまなかったが興味は感じた。日本の幽冥道の思想と同じく、ボンはこの国土の第二の住民であり、大団体とは共通せぬ利害を持つ者で、計算の外である。物静かな京都人が全部踊ったような祭の日にも、若王子山の松林に細い煙を挙げている者があるのを見た。事によると彼らの中の小賢しい者は、辻々の赤い掲示を見て、注意せよ十月一日を、この調査に洩れなかったらボンの恥ですと仲間に言ったかもしれない。
原典より
不思議なことには國勢調査の時に、氣を附けて見たがどの部落にも、ボンは一世帯も居なかつたと謂つた人が有る。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。