家印が灯に光る宿場跡の御堂垣内
どんな伝承か
明治三十四年の初冬、はじめて信州に入り上諏訪の湯宿に泊まった翌日、山一つ向こうの藤沢村から迎えが来て、夕方から杖突峠を越え、御堂垣内の部落で開かれた村農会の夜の集まりに列した。山と山とに挟まれた細長い淋しい村であるのに、不思議なことに家々は潜り戸に油障子を立て、家じるしが墨黒く夜の灯火に光っているのが目についた。以前の宿場で駄馬が多かったのだと珍しく聴き、飯田へ帰ってその事を伯父に言うと、それは親代々何十遍も越えていた金沢峠という路だと言われたという。
原典より
山と山とに挟まれた細長い淋しい村なのに、不思議に潜り戶に油障子を立て、、家家の家じるしが墨黒に、夜の燈火に光つて居るのが目についた。—— 定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。