路銀尽きて越えた折壁の関所
どんな伝承か
真澄は天明五年の旧九月三日、まだ星の多い暁天に湯瀬の宿の湯舟に身を浸し、急いで支度をして折壁の関所を越えた。路銀はもう遣い果たしたから、町へ出たならばこの着ている衣類を一枚売るべしと考えながら歩いたということが日記には書いてある。この時はまだ三十二歳の、白井秀雄という貧しい遊歴文士であった。その時分の順路はもちろん田山の町を通っていた。今ある新道はその町をずっと左の山手に見て、真っ直ぐに県境の小村を抜けて行く。我々の真澄はこの道は通らなかったのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。