五月末の十和田に咲く一本の山桜
どんな伝承か
雪国では春の来ることが遅く、南から移り住んだ祖先も秋の慌ただしく暮れることには戸惑ったに違いないと柳田国男は説く。その例として、自分が訪ねて見た五月末の十和田では、雪を分けてわずかに一本の山桜が咲こうとしていたと記している。越中の袴腰峠や黒部山の原始林でも、六月初めの雨の日にまだ融けきらぬ残雪が路の傍に高く積んでいた。春の彼岸の墓参りにも雪を掻きのけて窪みを作り香花を供えるという話が越後南魚沼でも語られるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。