松林の道で荷車に轢かれた馬方の子
どんな伝承か
石巻から出た自動車が、丘の麓の道を曲がって渡波の松林にさしかかろうとしたとき、遠くに人と馬と荷車の一団が斜めに横たわって休んでいるのが見えた。と思う瞬間、その馬が首を回し、車を牽いたまま横道へ飛び込んだ。小学校を出たばかりかと思われる小さな馬方が、綱を手にしたまま転んだと見たときには、もう荷車の後輪の一つが、ちょうどその腹の上を軋って通り過ぎていた。それでも子供は真っ直ぐに立ち、三足ほど馬を追い、振り返って一瞬こちらを見て、腹を両手で押さえてまた倒れた。反対側の輪に力がかかっていたとも、路面に深い凹みがあってその中に転んでいたからともいい、はっきりしない。病院に連れて行かれ、そのときは助かったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。