吉備津の温羅と三穂太郎
どんな伝承か
柳田は中世の鬼の話を二系統に分ける。今昔物語などに出る陰陽道系の鬼が板戸や油壺に化けて人を害するのに対し、山中の鬼は往々にして勇将猛士の討伐を受ける。斉明天皇七年八月に筑前朝倉山の崖の上に踞まり、大きな笠を着て顔を手で支え、天子の葬儀を見下ろしていたという鬼は、その系統で最も古い一つである。酒顛童子も鈴鹿山の鬼も、悪路王・大竹丸・赤頭もみな武力の討伐を必要とした。吉備津の温羅も三穂太郎も、鬼といいながら実は人間の最も獰猛なものに近く、護符や修験者の呪文だけでは煙のように消えてしまいそうにない鬼であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。