荷を庫へ入れた顔の見えぬ女
どんな伝承か
本所二丁目の相生町と緑町との横町にあった梅原宗得の家には、火防の神として祭られる土蔵の妖怪がいた。ある年、近くで火事があり、この家も片付けが間に合わなかった時に、見馴れぬ女が一人出て来て荷物をまとめて庫へ入れてくれた。髪は長く垂れ、顔はどうしても見えなかった。やがてその女は庫の中に自分も入り、内から戸を閉じたという。古土蔵は石庫で中には変わったこともなかったが、ただ隅の棚の上に五六寸四方の箱が一つ、昔から置き処を換えず誰も手を着けずにあり、これが不思議の源であろうということであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。