鹿笛に寄って微笑した山女
どんな伝承か
猟夫が金谷(磐城相馬郡金房村大字)の深山に入り、櫓を揚げて暁天に笛を吹き、鹿の来るのを待っていた。ある夜四更に笛を吹くと、前の物蔭に大きな音がした。大鹿が来たかと鉄砲を取り上げると、藪の中から女の頭が出た。その大きさは大笊のようで、乱れた髪が地を曳いていた。猟夫を見て微笑んだ物凄さは譬えようもなく、驚き恐れて密かに櫓を下り、走って家に帰りつくと悶絶した。数日を経てようやく本心に復し、その顛末を語った。老人らは、この者が常に殺生を好むゆえ山神が戒めたのだといい、猟夫はついに殺生をやめた。この辺りでは正月と十月の十七日に山神を祭り、この日に山へ入ると怪異を見るという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。