豊後伏木村・毛深き野人となった子
どんな伝承か
『九桂草堂随筆』巻八に載る広瀬旭荘の記事である。豊後日田郡の伏木という山村に、五六歳の子が夜泣きをして止まないので戸外へ追い出した家があった。傍らに山があり、声がしだいに遠く山を登るように聞こえたので驚いて尋ねたが、ついに行方が知れなくなった。十余年の後、同郷の小一という者が日向の梓越という峰を過ぎると、麓から丈七八尺、全身に毛の生えた怪しいものが登って来た。それは人語を発して、自分こそその伏木の児だと名乗り、懐から橡の実で製した餅のようなものを出して、父母が存命なら届けてくれと頼み、これから椎葉山へ向かうと言って、路の無い断崖を鳥のように登って行ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。