背面へ抜ける沢の怪事
どんな伝承か
猟師や木挽などのように、たびたび山奥に野宿せねばならぬ人々は、久しい経験から地形によって不思議の多そうな場所を知り、努めてこれを避けていた。深山の谷で奥が行き止まりになっている処は無事であるが、嶺が開けて背面の方へ通じている沢は、夜中に必ず怪事があるという。素人は魔所などと言えば往来不可能の谷底のように考えるけれども、事実はかえって正反対であるという。また山の高みの草茅の茂みの中に、幽かに路らしいものの痕跡を見ることがあると、老巧な山稼人は避けて小屋を掛けなかった。山男山女の通路に当たると知るからである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。