雪の夜に谷から響く神木かぞえの音
どんな伝承か
野山が白化粧した夜さり、村の谷間の方からトッコーン、トッコーンと音がする。幼い子がその音を耳にして尋ねると、母さは山姥の御神木かぞえだと答える。しかし心の中では、年老いた婆が谷くだりをして、口の中で経を詠みながら手持ちの杖で杉の木を叩いている音だとつぶやき、いつか自分もそうなるのかと心を冷たくする。古老も、これは村の密かごとの一つだと声をひそめて語った。谷くだりの場所の杉は、村の御神木として伐ることを許されず、緑濃く天に聳えている。ざっと昔の事なのに、雪の降る夜さりには、時としてその音が谷の方から聞こえてくることがあるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。