老比丘尼に化けた白毛の大狸退治
どんな伝承か
西宮の署長がしくじった噂を聞いた御影分署の署長は、自分の署で退治してみせると意気込んだが、名乗り出る者がいない。そこへ芦屋村の駐在所にいた榎本巡査が役目を買って出た。九州の藩の剣術指南役の家に育ち、北辰一刀流を極めた署内随一の使い手である。榎本はその日のうちに池や土手の様子を調べ、雨の秋の夜、黒い筒袖に家伝の刀を携えて池へ向かった。十一時近く、読経の声がして、茂みの陰に燐光が見える。懐中電灯で照らすと六十過ぎの老比丘尼が念仏を唱えており、麓の者で無縁仏の回向をしていると言う。疑いを捨てきれない榎本が抜き打ちに斬ると、倒れていたのは全身白毛の大狸で、それから池の死者は減っていったという。
原典より
巡査は直ちに用意の燐寸に蝋燭を点じて辺りを見通せば、其所等一帯、早や血の海と化して居ると見しは、全身白毛の大狸、物の見事に胴体真二つになつて横たはつてゐる。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。