秩父から帰った神田の小僧
どんな伝承か
正徳年間の江戸のこと。神田の小間物屋で働く十四、五歳の小僧が、正月十五日の夕方に手拭を提げて近所の湯屋へ出かけた。ほどなく裏口に立っていたのは、股引に草鞋という旅装で藁苞を提げた、その同じ小僧である。彼は藁苞から掘ってきた山芋を差し出し、今朝がた秩父の山を出て帰りましたと言った。留守にしていたのは去年の煤払いの晩からで、山では毎日、客の給仕をしていたとも語る。だが店の者から見れば、小僧は暮れからずっと働き、つい先ほど湯へ出たばかりだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の科学――幻覚の心理を探る(中村希明・中村希明・精神医学)
『怪談の科学――幻覚の心理を探る』は、中村希明が精神医学の立場から著した怪談の解説書である。新聞記事の幽霊騒ぎや体験談、民話の化かされ話、「浅茅ヶ宿」やハムレット、『四谷怪談』などの古今東西の怪談を取り上げ、その多くを高速道路催眠現象、感覚遮断、飢えや寒冷、睡眠や薬物による幻覚として説明する。生理的幻覚から精神変調時の幻覚までを四章で分析し、終章「怪談の論理」で恐怖と幻覚の仕組みと日本の幽霊の特色を論じる。