足の裏に日月の紋を持つ天狗の弟子
どんな伝承か
備中の高梁に住む岡山県士族武野武平は金毘羅の信者で、明治三年三月十日、讃岐へ参ると言い残したまま行方を絶った。妻およしは神隠しにあったかと思い、その日を命日として法事を営んでいた。ところが十年後の明治十三年三月十日、法事の最中に武平がのっそりと帰ってきた。行衣に笈を負い兜巾をつけた姿で、讃岐の象頭山金毘羅に留まって行者となり、天狗の仲間入りをして難病を治す法を授かったと語り、証拠として日月の紋があらわれた足の裏を見せた。難病人を足で踏む荒療治が評判となり、のちに警察に拘引された。
原典より
といって、足を投げ出して見せたので、女房はじめ居合せた親戚の者たちは、ただ驚きあきれるばかりであったが、恐る恐る武平の足の裏をのぞいて見ると、これはまた不思議なことに、円いものの形が二つ、おぼろげに見えるのであった。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。