脱線と自殺を招いた東京駅の墓石
どんな伝承か
二十五日の午前九時半、東京駅第三ホームの神田寄りの端で読経の声が上がり、乗降客が黒山のように集まった。京都の浄土宗大本山黒谷金戒光明寺の大僧正邦芳随円ら三十七名の加行僧が、そこで見つかった墓石にまつわる不祥事の供養をしていたのである。その墓石は三年前にどこからか運ばれた土砂の中に埋まっていたのを、二十日ほど前に工夫が掘り出してグラウンドへ移したものだった。以来、競技中の青年が足を折り手を負傷する事故が続き、駅構内にあったころは脱線や飛び込み自殺が頻発し、宿直の駅員が夜ごとうなされたという。上京中の大僧正はこれを聞き、帰りの汽車を一本遅らせて供養を営んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。