円タクが乗せた娘の幽霊
どんな伝承か
向島区業平町五八の松山安次郎(仮名)方の自動車運転手、平尾政三(仮名・二十三歳)が、数日前の九月末、雨のしょぼしょぼ降る深夜に青山墓地付近を流していると、二十二、三歳くらいの美しい娘が下谷まで五十銭の約束で乗ってきた。同区谷中町二七番地先の門構えの家の前で「ここが私の家です」と自動車から降りたが、女は料金を払わずスーッと門内に消えてしまった。運転手が玄関へ家人を呼び出して娘を乗せて来た話をし料金を請求すると、「私の家には娘はありません。死んだ娘の今日が一周忌に当たるので供養しているところです、では仏が帰って来たのでしょう」と言われ、一円を渡された。運転手は気味が悪くなって交番に駆け込んだ。
原典より
同区谷中町二七番地先の門構えの家の前で『ここが私の家です』と自動車から降りた、女は料金を払わずにスーッと門内に消えた。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。