井戸に消えた常磐津の師匠と按摩
どんな伝承か
江戸根津宮永町のあたり、蓮華寺の墓地に隣り合って常磐津の女師匠栄次が住んでいた。肩の凝りに悩んだ栄次が呼んだ按摩の辰の市は、実は七日前に死んでおり、治療を終えると姿を消していた。栄次は辰の市の弟である徳の市の持つ百両に目がくらんで一緒になるが、以前から言い交わした孝次郎が徳の市を殺してしまう。以来、鏡には按摩の顔が映り、墓地から笛の音が流れた。音に誘われた栄次は井戸端でかんざしを落とし、孝次郎は井戸へ転落、井戸から現れた徳の市が栄次を引き込む。あとには痣のある辰の市が笑って井戸を覗いていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。