花嫁衣裳の袖から出た白い手
どんな伝承か
江戸の中頃のことである。弘前の織物問屋宮川の娘アイが、嫁入りの日を前にして魚を食って中毒を起こし、死んでしまった。アイは弘前の城下でいちばんの着物を持っている娘だと噂が立ったほどで、花嫁衣裳には二百両を越す金がかかったともいわれた。宮川の父と母は、その花嫁衣裳を掛けてオイオイ泣いた。娘の葬いが済んだ晩のこと、掛けてあった花嫁衣裳の袖から、突然、白い細い手が出た。しばらくして手は消えた。死んだ娘が未練を残したので、袖を通しにきたのだといわれた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。