保福寺へ通う合羽姿の遭難者
どんな伝承か
尾浦の鈴木さんの家の大きな船が沈んだ。八月か九月の台風の頃だったという。尾浦の部落からも竹ノ浦の部落からも何人かずつ乗っており、働きざかりの父親たちが死んだ。遭難から一か月ほど経った頃、ある人が保福寺のところへ用があって行くと、雨も降っていないのにピチャピチャと音がする。向こうからザックザックと歩いてくる人たちがいて、黒いゴムの合羽を着て雨の中を歩いているように見えた。その人たちが通り過ぎるときだけ雨が降っている感じがしたという。保福寺は尾浦にあり、桐ヶ崎も竹ノ浦も御前も、人が亡くなればみなここへ来る寺であった。遭難した人たちが寺へ帰って来たのだろうと語られている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。