渚の霧に現れた津波で死んだ妻
どんな伝承か
土淵村の助役北川清という人の家は字火石にあり、代々の山伏であった。清の弟の福二は海岸の田の浜へ婿に行ったが、先年の大海嘯に遭って妻と子を失い、生き残った二人の子とともに元の屋敷の地に小屋を掛けて一年ばかりいた。夏の初めの月夜に便所へ起き出したが、行く道も浪の打つ渚である。霧の中から男女二人が近寄るのを見れば、女はまさしく亡くなった妻だった。跡をつけ、船越村の方へ行く崎の洞のある所まで追って名を呼ぶと、振り返ってにこと笑った。男も海嘯に死んだ同じ里の者で、今はこの人と夫婦になっているという。二人は小浦へ行く道の山陰を廻って見えなくなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。