山の神の季節に消えた雪中行軍隊
どんな伝承か
明治三十五年頃の話。八甲田山のあたりでは、旧暦十二月十二日を中心とする約ひと月を「山の神の季節」といい、この間に山に入ると山の神に取り殺されるといわれていた。山の神の日の二日後に、青森の歩兵第五連隊が八甲田山の雪中行軍をすることになった。ロシアとの戦争が迫っていると考えられ、寒さに負けない強い兵士を鍛えておく必要があったのである。年寄りは行軍に反対したが、行軍隊は「軍隊が迷信に惑わされてたまるか」と出発した。だが予定の日を過ぎても帰らず遭難し、二百十名のうち助けられたのは十一名だけであった。村では山の神が怒って隊を雪の底に埋めたのだといい、今も山の神の季節に八甲田山へ登る者はいない。
原典より
部下をよくいびる上官の軍力のさやに兵隊たちが醤油をいれておいた。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。