誰何に答えず撃たれた女中の亡霊
どんな伝承か
明治の中ごろより後の話。佐倉の第五十七連隊では、兵舎から離れた窪地にある弾薬庫を、昼夜を問わず衛兵が一人ずつ歩哨に立って守っていた。ある兵が夜の歩哨に当たると知った町の料亭の女中は、彼を慕って人の来ない時間に火薬庫を訪ねた。ところがその日、当番は不運にも別の兵に代わっていた。暗がりに動く影を見た当番は三度誰何したが返事がなく、規則どおり撃ち殺した。女は恋人がからかっていると思い、わざと答えなかったらしい。その後、雨のしょぼ降る日には、火薬庫に女の亡霊が現れるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。