村で仏さまと呼ばれた疎開先の祖父
どんな伝承か
戦争中、横浜生まれの語り手は父母の実家がある静岡県伊東市に疎開し、三年ほど暮らした。不用心だからと母方の祖父が毎晩泊まりに来て、いろりに火をくべながら黙って家族を見守り、朝になると帰っていく生活だったという。のちに十七、八歳の頃、語り手は臨死体験をした。気がつくと川のほとりにいて、向こう岸の黄色い花畑にあの祖父が座り、あぐらではなく立てひざで火箸をいじる、いつもの姿でこちらをじっと見ていた。祖父は大地主の息子でありながら、人に見られぬよう朝早く貧しい小作の家に食べ物を配って歩き、村では「仏さま」と呼ばれ、亡くなった際には村中の人が葬式に集まったという。
原典より
そういう人だから、村では『仏さま』と呼ばれていたくらいで、亡くなったときには、村中の人がお葬式に来ました。—— 証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。