乳を惜しんだ母が夢で訴えた苦しみ
どんな伝承か
『日本霊異記』下巻の話。越前国加賀郡の横江臣成人の母は美しく多淫で、男と寝るために幼い子を捨て置き、乳を惜しんで飢えさせたまま若くして死んだ。宝亀元年十二月二十三日の夜、紀伊国名草郡から来て加賀郡畝田に住みついていた寂林法師が夢を見る。鏡のように平らな広い道のそばの草むらに、太った裸の女がうずくまり、腫れた乳から膿を流して苦しんでいた。女は子を飢えさせた報いだと語り、成人が知れば罪は救われると言う。法師が里で成人を探し出して夢を告げると、子らは仏像を造り経を写して母を弔い、罪は許されたと夢で告げられた。
原典より
このことを紀伊国名草の郡の寂林法師が夢に見、成人をさがしあてて、この多淫な女の罪を救うという話である。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。