行燈の油をすする鬼子
どんな伝承か
毎晩、永代橋のたもとの居酒屋へ通う老爺がいた。娘を吉原へ売った後ろめたさから、酒はいつも半分ずつしか頼まない。ある夜、五十両を包んだ風呂敷を置き忘れて帰ると、居酒屋の女房が亭主を説き伏せて猫ばばを決め込み、取りに戻った爺をしんばり棒で打ち据えて追い返した。爺は橋から大川へ身を投げる。店は繁昌したが、やがて女房は乱杭歯の生えた醜い赤子を産み、その顔が爺そっくりなのを見て逆上して死んだ。乳母は誰も居つかない。丑満時になると赤子は起き上がって行燈の油をすすり、細い腕を差し出して、もう半分とねだるのだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。