終電車に乗り消える老婆
どんな伝承か
大正十三年の春、芝の宇田川町を通って三田へ向かう終電車に、風呂敷を背負った六十がらみの老婆がひょいと乗り込むという噂が立った。息をせかせかとさせているので車掌が切符を切ろうとすると、大門と金杉橋のあいだあたりで、すうっと消えてしまう。前年の暮れ、神明町の下駄屋の老婆が貸した烏金を取り立てた帰り、宇田川町の鳥屋の前で電車に轢かれて死んでいた。財布には三十円が入っていたという。芝から麻布のあたりでは、金に未練を残した婆さんの怨霊が電車に乗るのだと評判になった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路・幽霊・文学史・昭和)