江戸で死んだ主人の影を見た彦根藩士
どんな伝承か
大勢が見た幽霊の例として著者が挙げるもう一つの話。ある彦根藩士が、江戸詰めで留守にしている主人の姿が、垣根のあたりに影となって現れるのを見た。ちょうど同じ刻限に、夫人もまた障子に映る主人の影を見ていた。ところが実のところ、主人はそのころ江戸で熱病にかかって亡くなっていたという。著者は、このように時刻が符合したという伝聞の多くは仮定や憶測から生まれたもので、記憶そのものも当てにならないことがあり、どれほど確かそうでも本当にあったとは言い切れないと述べている。
原典より
また彦根藩士が江戸詰の主人の影を墻の辺に見、夫人がその同時刻に障子に映る影を見たが、実は主人がその時江戸にて熱病で死していたという話もある。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。