乞食を拒む心が破った老僧の術
どんな伝承か
三月一〇日の朝、熊蔵は老僧の命令に導かれるように那智を目指して家を出た。故郷を捨てたような悲しさの一方で心の底は静まり、何者かが心に潜り込んで動かしているようだったと後に語っている。飲まず食わずで歩き続け、夜になって尾鷲を過ぎ焼山の登りにかかったとき、どこかの家で食物をもらえという通信が届いた。操られるように里の家で食べ物をねだると、乞食めと罵られた途端に目が覚めた。死んでも乞食はいやだという反抗心が術を破ったのだという。熊蔵は何も口にできず、山道に倒れて気を失った。
原典より
術にかかっていながら、乞食はいやだ、という火のような反抗心がもたげる。—— 霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
霊術家の饗宴(井村宏次・井村宏次・霊術研究・1983年(昭和58年))
『霊術家の饗宴』は、井村宏次が一九八三年に著した近代日本の霊術家の歴史である。明治から昭和初めにかけて、気合術・催眠術・霊子術などで民衆の病や苦しみを救おうとした霊術家たちの運動を、当時の新聞記事や刊行物、関係者の家族への取材をもとにたどる。プロローグと六章、エピローグからなり、浜口熊嶽、桑原天然、福来友吉と千里眼事件、太霊道の田中守平を章ごとに取りあげ、霊術ブームと取締法による衰退までを描く。