狐が憑けなかった二人の男
どんな伝承か
三重県の九鬼村で、村のある人に狐が憑き、いろいろとしゃべったなかで次のようなことを明かした。はじめは源兵衛という人に憑こうとしたが、いつも鼻をくんくん鳴らす癖があって隙がなく、憑けなかった。次に白石屋の漁師七蔵に憑こうとしたこともあったが、顔を見たら怖くなってやめたという。七蔵はあばた面で、苦虫をかみつぶしたような恐ろしい顔だったので、皆はそのせいだろうと思った。のちに七蔵が語ったところでは、ある静かな夜、家の裏手の向こうの早田という方から「七ちゃーい」と呼ぶ声がしきりにし、舟を漕ぎ出してみたが誰もおらず、狐かと思って引き返したことがあったという。
原典より
最初、源兵衛と云ふに憑かうと思つたところ、其人間は、いつも鼻をクン/ 云はせる癖があつて隙がないので憑かれなかつた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。