豆狸の気瘤が巡査に飛び移った怪
どんな伝承か
大阪には豆狸と呼ばれる妖しい獣がいて、外道のように人に憑くと信じられていた。明治四十年ごろ、大阪の谷町七丁目に住むある人に豆狸が憑き、医者では手に負えないので、著者の知人の霊能者D君がわざわざ京都府から招かれた。D君には患者の部屋の書棚の裏を豆狸が二、三匹出入りするのが見えたが、家族には見えなかった。術を施すと患者の左腕に弾力のある気瘤が現れ、手首から親指、人差し指へと移り、指先から灰色の水飴のような物が垂れて床に落ち、小さな饅頭ほどに固まってくるくる回った。真夏の昼過ぎ、それは戸口へ近づいた巡査の胸へ飛び移り、巡査は急に狂って刀を振り回しながら走り去った。患者はそれきり全快した。
原典より
患者に術を施すようになると、患者の左腕に突然弾力ある氣瘤が一個現出して、…—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。