稲荷の使者だった老狐宗語
どんな伝承か
芭蕉門下の俳人八十村路通は稲荷を信仰し、毎月深草の社に参っていたが、そこでよく見かける八十すぎの老僧宗語と親しくなり、三年ほど行き来した。宗語は数百年前のことを見てきたように語った。ある日、関東へ旅立つので瀬田で別れの宴をしたいと言い、席上、自分は年を経た狐で長く稲荷の使者を務めたが辞めた、故郷は彦根在の馬淵某の屋敷内だと明かして去った。路通らが彦根の馬淵家を訪ねると、主人は喜んで、かつて行方知れずになった息子を宗語が連れて諸国を巡り学問を教えたこと、一族を見知らぬ庵に招いてもてなし、器をのちに社前へ届けてきたことを語ったという。
原典より
自分の故郷は江州彦根在の馬淵某の邸内で、主人は自分のことを能く承知だと告げて訣別をして立去った。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。