小梅の別荘で誘う牝狐と名優の弟
どんな伝承か
江戸の名優岩井半四郎の弟が、向島へ行こうとして小梅の水府別荘のあたりを通りかかると、芸妓のような女が立っていて、自分の家へ来ないかと誘った。器量に引かれてついて行くと厚くもてなされ、翌日の約束まで交わす。それから毎日通い、明け方に帰る日が続いた。家の者に問われても向島とだけ答えていたが、しだいに顔色が衰えていく。問い詰められて白状すると、家人は野狐に違いないと止めた。それでも離れられぬと言って通い続け、ついに衰えて死んだ。翌朝、庭に狐が死んでいたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。